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zoom RSS 誘拐ラプソディ 荻原浩 双葉文庫

<<   作成日時 : 2010/04/26 00:17   >>

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http://take-it-ez.at.webry.info/201004/article_17.html
映画誘拐ラプソディ 榊英雄監督 高橋克典主演をみたあとにこの荻原浩さんの原作を読みました。
http://take-it-ez.at.webry.info/201003/article_32.html
寝ずの番 中島らも 原作 映画 中井貴一主演 木下ほうか出演 マキノ雅彦監督
http://take-it-ez.at.webry.info/201004/article_1.html
映画「寝ずの番」中島らも原作  
上記「寝ずの番」の原作と映画とは違って、今回の「誘拐ラプソディ」は原作と映画とでは多少ことなります・・・まあ、それは原作の長さが違うということで基本映画における2時間と原作のながさがというものも重要なのだな・・・・と・・・でも、この原作は反則的です。・・・って面白すぎます。
これを2時間の映画にまとめるというのはとても大変な作業ですね。
映画人としての榊英雄さんや全てのスタッフたちの仕事を感じます!
下記は原作より・・・抜粋!
原作のオープニングとエンディング・・・はじまりであって、終わりである・・・みたいなすばらしいエンディングです。

死ぬには、ちょうどいい場所だ。
春の霞にけむった住宅街を見下ろす丘の上。大きな満開の桜が淡雪を散らしたように花を咲かせている。
丘の上は空き地だ。かつては公園だったらしい。朽ち果てたアスレチック道具が何かの死骸を思わせるみすぼらしい姿をさらしている。周囲に人影がないことを確かめてから、伊達秀吉はゆっくりとクルマを乗り入れた。
エンジンを停め、リクライニングを倒し、カーステレオにテープを入れる。最後の曲は決めていた。矢沢永吉の「いつの日か」だ。
四月初めの土曜の朝。フロントガラス越しに見上げる空は悲しいほど青い。人生の最後の一日としては、悪くない日和だ。
イントロが始まり、永ちゃんの搾り出すようなボーカルが車内に流れ出すと、フロントガラスに桜の花びらが一枚、ひらりと舞い落ちた。
見ているうちにもう一枚、ひらり。
青空を映すガラスの上に薄桃色の模様を織りなしていく。先週咲き出したばかりの桜が、もう散りはじめているのだ。
桜は好きだ。散るために咲く花。俺と一緒だ。桜の花のような人生。ぱっと咲き、ぱっと散る。いや、違うか。俺の場合はそんなにきれいなものじゃない。ただの一度も花を咲かせちゃいないのだから。
38にもなって女房も子どももいない。住む家もない。金もない。カセットテープとロープを買ってしまったから、所持金はあと635円。
クルマもない。このクルマは親方のものだ。横腹に斉藤工務店という文字が入った白のカローラバン。もう仕事もない。親方を殴り倒し、金庫から金をつかみとって、クルマを勝手に持ち出してしまったのだから。
俺には、本当にもうなにもない。あるのは320万円の借金と前科だけだ。

赤と黒の縞模様の梱包用ロープは、まるで禍々しくとぐろを巻いた毒蛇に見えた。

二本目のマイルドセブンスーパーライトを指先が焦げそうになるほど短くしてから、片足をあげ、靴底でひねり潰した。

本当はセブンスターが好みなのだが、肺ガンが怖くていつもマイルドセブンのスーパーライトにしている。迷ったが、やっぱりスーパーライトを買うことにした。効果を投入している途中で、残った金が236円しかないことに気づいた。5円と50円をごまかせないかと思って、いちおうカネを投げ入れてみたが、だめだった。
くそっ、自動販売機まで俺を馬鹿にしやがって。秀吉は安全靴で販売機を思い切り蹴り飛ばした。
38年活きてきて、たった236円しか残らない人生について、のろのろと丘を登りながら秀吉は考えた。いいことなんか、これっぽっちもなかった。本当になにも。

サルトルという外国人の本だって読んだことがある。たいそうなインテリだそうだが、秀吉にはちっともそうは思えなかった。その男の本の中に、、こんなことが書いてあったのを覚えている。
「人間には存在する理由など何もない!」
こいつは馬鹿かと思った。高い教育を受けて、何十年も勉強そして、ようやく気づいたのか?そんなこと、秀吉は小学校のころから知っている。

「あたり前だ」のクラッカと続けそうになって、あやうく後の言葉を呑みこむ。「あたり前田のクラッカー」は古いギャグだ。年齢がばれてしまう。

売店で煙草を買う。死ぬ間際ですらニコチンの量を気にしてスーパーライトにしていたのに、迷わずセブンスターを選んだ。なにしろいまや自分は大悪党なのだ。怖いものなど何もない。肺ガンも警察も親方も。

灰島はすでに都市型迷彩をほどこした自前の戦闘服を身につけ、米軍採用銃KSC・M9を磨き続けている。

すっかり飼い馴らしていたはずの心の中の狂犬が、久しぶりに首をもたげはじめるのを感じていた。そいつは飢えていたのだ。そいつがいまにも鎖を引きちぎって体の外に飛び出しそうだった。戦いを忘れたヤクザはヤクザではない。ヤクザである自分が犯罪者を追いかけることがあろうなどと夢にも思ったことはなかったが、警察より功名に迅速に犯人を捕えるつもりだった。そして警察以上の処罰を下すのだ。

今回の場合、一朝一夕には消すことのできないヤクザの習い性が、自分たちの手枷、足枷になっている気がした。こんなときですら、自分たちの商売道具であり、存在証明でもある服や立ち振る舞いを捨てられない。組員たちも、そして俺自身も。それを捨ててしまうのが怖いのだ。自分の手から何もかもがなくなってしまう気がして。

桜田たちとともにたった5人で看板を上げた八岐組を、20年足らずでここまで育て上げたのは、昔ながらの腕ずくと度胸だけではない。むしろ頭脳と戦略だと自分では思っている。交渉ごとで素人に負けるはずなどない。
大切なのは、まず相手にエサを与えてやることだ。主導権を握っていると錯覚させ、甘い夢を見せる。そしてその油断に乗じて、相手の弱みに握り、罠をしかける。駆け引きの初歩だ。そして自分はいまのところうまくやりおおせている。篠宮はそう考えていた。
問題はここからだ。いつまでもやつに偉そうに命令させておくつもりはない。そろそろこっちが主導権を奪う番だ。裏稼業でも表稼業でも最後に笑うのはいつも自分だった。常に相手を圧倒し、自分の有利なように事を運んできた。今回も同じ事をすればいい。クールに。計算ずくで。
情勢は客観的に分析していた。そうとも俺は冷静そのものだ。

向こうの弱みは、自分がつかまるかもしれないという不安だ。その不安をまずつのらせ、それから安心感を与える条件を出す。もちろんそこに罠を張りめぐらせるのだ。

この者は、これからどうしようとするだろう。王宗華は考えてみた。誰かを追い、誰かの命を狙う時、彼はいつもその人間の気持ちになることにしている。想像するのだ。その人間の恐怖を、絶望を。そうすれば、どんな養父と絶望を与えるのが最も効果的であるかがわかる。

使うのは2本の細い金属。先の細いピックという道具と、先端がL時型になったテンションと呼ばれる道具の2種類だ。ピックで鍵穴の中のピンを押し上げ、テンションでシリンダーを回転させる。専門の工具がなくても、針金や金串を細工すれば代用できる。

王宗華は心から消えかけている憎悪と殺意をもう一度呼びさまそうとしたが、いったん灰になってしまったそれは、もう炎にはならなかった。

協力者の提案は却下だ。今日は人を殺める気分ではない。協力者は有能だが、野心が強すぎる。篠宮も知っておいてほうがいい。自分を有能だと信じるのなら、身近に自分と同じような人間を置くべきではないのだ。そういう者ほど裏切りを考えるものだから。

「しょせん、あの人はいいとこのボンボン上がりだ。性根が甘くできている。ヤクザは俺やカシラみたいにガキの頃から不幸をしょってないと駄目なんですよ」
「俺がいつ不幸だった。勝手に決めるな」

いくら探したってないはずだ。最初からなかったのだ、日本には。伝助のばあちゃんの家はハワイだ。ハワイのどこかにナナクリという土地があるらしい。

高価でもなければ、安くもない、平凡なクルマに女房と小さな子どもを乗せる男の暮らしが羨ましく思えた。伊藤和志になってしまいたい。秀吉は心の底からそう思った。
免許証の写真を見るかぎり、特別ハンサムではないが、こざっぱりした容貌のそこそこの男だ。29なら女房もまだ若いだろう。リヤウィンドゥの下に置かれたティッシュには、手作りらしいカバーがかけられていた。手先の器用なそこそこの女に違いない。チャイルドシートは青色で、毛布の絵柄は合体のロボットのアニメだった。子どもは男の子だろう。平凡な男と平凡な女から生まれた、そこそこ可愛い子どもだろう。
子どもは嫌いだが、自分の子どもなら、ああいう、そこそこ可愛い子どもならいてもいいな。

ギャンブルをやめろと自分の女にいわれることは、ギャンブルに行くことより魅力的に思えた。
秀吉は自分のすぐ隣の岩場に目を落とした。誰かが一緒に座っているとでもいうふうに。
そこそこの自分。そこそこの女房と子ども。そこそこの人生。それ以上、必要なものがあるだろうか。手に入れようとしさえすれば、手に入ったかもしれないのに。俺はどうしてこうなっちまったのだろう。どうしてここにいるのだろう。

つまり・・・うまく言えないけど・・・大切なことっていうのは、そういうことだ。案外どうでもいいものだったりするんだ。何の役にも立たない、何のトクにもならない、そういうことが大切だったりするんだ・・・だって、電卓やワープロは夢を見ないでしょ。

唐突に、秀吉の頭の中にコマ切れの映像が浮かんだ。秀次の顔。アンナの顔。親方やおかみさんの顔。母親の顔。初めて女とやったソープランドの金ピカの椅子。万馬券を取ったことを教える電光掲示板の輝き。謎の中国人を倒したブラックジャックと伝助の笑った顔。俺の一生のフィルムは空っぽじゃなかった。俺にも、ちゃんと、あったんだ。人生のワンシーンってやつが。

「ねぇ、SL見に行くんでしょ。いつ行く?」
「そうだ、行こうな。いつになるかわからないけど、必ず行こうな」
「きっとだよ。約束だよ」
「ああ、わかってる。約束は」
二人で同時に言った。
「守るためにあるんだ」
春の風にあおられて、桜の花びらが雪のように降りそそいでいる。

これから刑務所に行くというのに、降り注ぐ花吹雪は、まるで秀吉の門出を祝うかのようだった。
もう一度最初から、すべてを始めるには、ちょうどいい場所だ。
ひらり。
秀吉の肩に桜が舞う。
もう一枚。
ひらり。

誘拐ラプソディー (双葉文庫)
双葉社
荻原 浩

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